はじめに:原状回復って何?
賃貸経営における「原状回復」とは、借りたときの状態に戻して部屋を返すことです。しかし、日常の通常使用や経年変化は借り主の責任ではなく、借り主が負担するのは「通常の使用範囲を超えた損耗・毀損(きそん)」に限ります 。
国土交通省のガイドライン「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」によれば、
- 借主負担:故意・過失、日常範囲を超える損傷
- 貸主負担:通常使用や経年劣化による損耗
と明確に定義されています 。 - つまり、画鋲や軽いピンの跡程度なら、通常の使用とみなされ、貸主が負担する修繕で済む可能性が高いのです。
1 画鋲やピンの小さな穴は大丈夫?

✅ 少数・小規模なら「通常損耗」
ポスターやカレンダーを留める程度の小さな画鋲穴は、「通常の生活において行われる範疇のものであり…通常の損耗と考えられる」つまり退去時に通常は費用請求されず、貸主(大家さん)に補修されるのが原則です。
⚠️ 数が多すぎたり場所を繰り返すとアウト
ただし、以下のような場合は「通常範囲」を超えると判断されることもあります:
- 同じ場所に何度も刺して穴が広がった
- 多数の穴を開けて壁紙が薄くなった
こうした場合は借主に修繕費用負担が発生する可能性があります
2 釘・ネジ穴はNG!借主負担の可能性大
❌ 下地まで傷むので特別損耗扱い釘やネジは、壁紙だけでなく下地の石膏ボードまで破損しやすく、通常の生活範囲を逸脱していると見なされます。そのため、一般的には借主の負担となります 。
🔧 修繕費用の目安
下地修復が必要な場合はさらに高くなる傾向にあります壁紙クロスの全面張り替え(6畳分):約4.5万~6万円
3 入居期間と経年劣化による減価償却

仮に借主負担になっても、減価償却が考慮されます。ガイドラインによれば、壁紙の耐用年数は6年。6年以上住んだ物件では、壁紙の価値はほぼゼロ扱いになり、借主負担は少なくなります。つまり、例えば入居5年目でネジ穴を開けてしまった場合でも、6年耐用の壁紙は修理費用に乏しくなっており、負担額は大幅に軽減されることが期待できます。
4 契約内容と特約条項の重要性

ただし、契約書に何が書かれているかが最も重要です。契約書や重要事項説明書に、画鋲すら禁止・借主負担と特約があれば、それに従う必要があります 。
- 「画鋲禁止」特約あり → 画鋲も借主負担
- 「ネジ穴は借主負担」特約あり → 当然借主負担
- 契約書に何もないなら、ガイドラインで守られる
不安な場合は、事前に不動産会社や管理会社に確認しておくのが安心です。
5 よくある質問Q&A
Q1. 「賃貸なのに画鋲すら使ってはダメ?」
A: 原則使ってOK。ただし契約書に使ってはダメ、と書いてある場合はNG 。
Q2. 「ネジで棚をつけたら必ずお金かかる?」
A: 重いものを支えるためのネジや釘は、ほぼ借主負担になります。下地修理も必要になりやすく高額です 。
Q3. 「DIYで自分で補修すれば格安?」
A: DIY修復は業者の目にはバレやすく、かえって追加費用を請求されるリスクがあります 。
Q4. 「エアコン設置のビス穴は借主負担?」
A: 生活に必要なエアコン跡は通常損耗とされ、借主負担にならないのが通例です 。
6 契約書を最初にしっかり読む
→ 画鋲やネジに関する特約がないか要チェック 。
画鋲は少量・分散して使う
→ 同じ場所に何度も刺すのは避けましょう。
ネジで取り付けたい場合は事前相談!
→ 備え付け方法など貸主との事前合意が重要です 。
減価償却を最大限に活用
→ 6年以上住んでいれば、壁紙交換の減価償却が効きます 。
7 まとめ
・画鋲や軽いピンの穴は、通常損耗として原則借主負担なし 。
ただし、穴が多数だったり広がったりした場合は負担が発生する可能性がある。
・ネジ・釘穴は原則借主負担。場合によっては高額補修になり、「借り主の責任」と見なされる 。
・契約書の特約条項が最優先。画鋲禁止などの記載があったら従う必要あり 。
・6年を超えた入居なら減価償却で修繕負担が軽減 。
・心配な場合は、事前に管理会社へ相談し、退去時の立会いで確認をとるのがトラブル回避のポイント。